X(旧Twitter)をやめました――「トランプ2.0」の発進にあたって
2025年1月22日



旧Twitter(現・X)をやめてBlueskyに乗り換えました

ナログ派で、親指シフト愛好者で、2014年1月までワープロ専用機で原稿を書いていた私が、親指シフトのパソコンを導入して原稿を書くようになって11年が経過した。自らはツイッターはやらないと宣言したものの(直言「雑談(123)「140字の世界」との距離」)、ホームページの管理人から、「ツイッターで更新のお知らせだけはした方がよいのでは」とアドバイスされて、2015年6月から「毎週1度だけのツイート」を10年続けてきた。リツイートもフォローもしないという、SNSのメリットをまったく度外視した使い方である。スマホについても、ドイツでの在外研究で「LINE」を使う必要があって導入するという遅さである(直言「雑談(115)「スマートなアホ化」と政治」)。だが、2021年6月に私自身がホームページの管理人になり、週に1度、html文書を使って更新をするようになってから、自分で「お知らせ」のみのツイートをするようになった。個人でアカウントを持ち、頻繁にツイート、リツイートしている同業者や知人とは比較の対象にならないほどのフォロワー数だが、固定客のためにはいいと続けてきた。

イーロン・マスクが2022年10月にツイッター社を買収して、「X」に名称変更してからは、「旧Twitter(現X)」という形で、メディアが「X (旧ツイッター)」とするのとは逆の表記をしてきた。ちなみに、公的にはウクライナの首都は「キーウ」とされるが、私は一貫して「キエフ(キーウ)」と表記してきた(直言「「ウクライナを世界最大の兵器生産国にする」―戦争を長期化させようとする力とは」の付記(松里公孝『ウクライナ動乱』16頁) 参照)。
  「トランプ2.0」においてXの所有者であるマスクが政権に入るこの機会に、旧Twitterでのホームページ更新情報をやめることにした。どこがよいか一概にいえないが、次善の策としてBlueskyにすることにした。


Xをやめたドイツ連邦軍――でもTiktokはいいのか

トランプの大統領就任の5日前、1月15日、ドイツの連邦国防省はXの使用の停止を告知した(『南ドイツ新聞』2025年1月16日)。国防省はXのソーシャルメディア・アカウントを使って情報を提供し、部隊の活動について説明してきたが、この写真が、X への国防省の最後の投稿である。そこには、「客観的な情報交換がますます難しくなっているため、このような措置をとることにしました」とある。他の省庁もXからBlueskyのような他のプラットフォームへの移行を始めている。

Xのオーナーのマスクが、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ヴァイデル首相候補とX上で対談して、「AfDこそがドイツを救うことができる唯一の政党だ」と持ち上げたことがXからの撤退を後押ししている。ドイツの60以上の大学や研究機関も、Xからの離脱を発表した。

ただ、ドイツ連邦軍は、兵士のリクルートの目的でTiktokを使った活動を継続するという。これには賛否両論があるという(以上、上記の『南ドイツ新聞』より)。

大統領就任演説――歴史逆走の「大号令」

 ちょうど4年前の直言「「トランプ時代」の歴史的負債」 冒頭の見出しは「就任当日の大統領令」だった。「(バイデン大統領が)「パリ協定」への復帰や、世界保健機関(WHO)脱退の撤回、イスラム系諸国からの入国禁止の撤回などの大統領令や関連文書に署名した。メキシコ国境の「壁」建設のために予算転用を認める国家緊急事態宣言の終了も含まれている」とある。1月20日、まさにこの逆のことが、より大規模に行われた。4年後の巨大な「歴史的反動」といってよいだろう。

 連邦議会議事堂で行われた大統領就任式は、招待客の恣意的な選別からしてトランプ流だった。通常は各国大使が呼ばれるが、ヨーロッパでは、右派ポピュリストのイタリア首相だけ。右派として知られるアルゼンチン大統領と中国の国家副首席が呼ばれたのは象徴的である。一番の驚きは、GoogleやAmazonなど「GAFA」のトップがマスクとともに、トランプ家族の後ろの列に並んだことだろう。新政権の閣僚よりも上席である。トランプの選り好みが如実に反映した人選と配置である。「MAGA」を旗印に貧しい労働者の票も集めて誕生した「トランプ2.0」は、「GAFA」の体制、すなわちバイデンが退任演説で警鐘を鳴らした「極端な富、権力、影響力を持つ寡頭制(オリガリヒ)」である。ドイツの週刊誌『シュピーゲル』4号(1月17日)は、「皇帝―トランプはいかにして自分の意志を世界に押しつけようとしているのか」と題して、「ドナルド・トランプは、これまで以上に力強く、決意を固めてホワイトハウスに戻ってきた。彼の敵は、米国が築き上げたリベラルな世界秩序と国内の民主主義である」と。

  政権移行が周到に準備されていたことは、30分ほどの就任演説にもあらわれている。突っ込みどころ満載の文章を通読することをおすすめする(日本語全文はここから)。英文と比較してみると、いろいろと気づく。reclaim, restore, reverse, rebalance, bring backという文言で、「取り戻す」あるいは「回復する」といったトーンである。思い出すのは、2012年に民主党政権に対抗して安倍晋三が掲げた「日本を、取り戻す」のスローガンである。トランプも、バイデン政権の政策を徹底否定するため、すべての項目についてこれらの言葉をまぶしている。「王政復古の大号令」ならぬ、「歴史逆走」の大号令である。いったい、いつに戻すのか。「トランプ大統領は、猛スピードで方針を転換しているだけでなく、アクセル全開で80年代に逆戻りしようとしている」というRTの指摘は興味深い。

「神聖トランプ帝国」「新世界無秩序」「権威主義的立憲主義」

 就任演説から見える「歴史逆走」は大きく3つある。

   第1に、「アメリカ・ファースト」(米国第一)の「神聖トランプ帝国」である。米国を再び偉大にするために、「私は神に救われた」。昨年の暗殺未遂事件を過度に強調して、自らを神に例えている。通常、大統領就任式の宣誓では、左手を聖書の上に置くのだが、トランプはメラニア夫人が、リンカーンが宣誓に使った聖書と、幼少期に母から贈られた聖書の2冊を差し出すのに、そこに手を置かず、下にだらりとたらした。これは合衆国大統領の宣誓では異例中の異例である。

1月20日を「解放の日」(Liberation Day)と名づけ、「米国の黄金時代が今、始まる」としている。「米国の斜陽」「落ち目のアメリカ」への反動が、人々の妬み、嫉み、やっかみ、僻みの負のエネルギーを満身に受けて、「トランプ2.0」を誕生させたわけである。主権を、安全を、正義を「取り戻す」。「すべての恐ろしい裏切りを完全かつ全面的にひっくり返し」という挑戦的な物言いで、既存の制度や「既得権益」を「敵」として、これにより貶められ、汚された米国を「取り戻す」というわけである。これは、ベルサイユ講和条約の国際枠組みのなかで、多額の賠償金とハイパーインフレ、大失業に苦しんだドイツ国民へのヒトラーの囁きに似ている。

第2に、トランプ流の「新世界秩序」構想である。端的に言えば、アグレッシヴな「モンロー主義」である。国際連合をはじめ、80年以上にわたり米国が中心になって形成してきた国際機関や組織には縛られない「単独行動主義」を宣言している。実質的には「新世界無秩序」にほからない。それは、演説の随所に見られる。例えば、カイロ宣言(1943年)で示された国際的「公理」ともいえる「領土不拡大原則」を蹴散らす勢いである。あけすけに「領土を拡大し」て、「新たな美しい地平線に米国旗を掲げる」という。明示はしなかったが、カナダやグリーンランド。パナマ運河を「取り戻し」、「火星に星条旗を立てる」。メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更。アラスカのマッキンリー山の名称を、先住民の伝統に基づき「デナリ」に改称したのを再び、マッキンリー山とする。マッキンリーは第25代大統領で、最大50%の輸入関税を課したことで知られる。「他国を富ませるために自国民に課税するのではなく、自国民を富ませるために他国に関税をかけ、課税する」。

トランプは「関税」を武器にして、EUから中国まで徹底して恫喝する。化石燃料の採掘促進(「堀って、掘って、堀まくれ!」 )、地球温暖化対策のパリ協定からの再離脱、WHO(世界保険機関)の運営を支える分担金の22%を踏み倒して脱退するなど、トランプの構想する「新世界秩序」は、米国第一の単独行動主義、「わが亡きあとに洪水は来れ」の勢いである。「米国人である以上、我々の行く手を阻むものは何もない」(ドナルド・トランプ)。かくして「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」はその中心の国家、米国における政権交代によって大揺れである。

第3に、「立憲主義からの逃走」から「権威的立憲主義」へ、である。 8年前に直言「自由と立憲主義からの逃走」をアップした。そこには、トランプに操られるオルバン(ハンガリー首相)やルペン(フランス国民戦線)らのイラストを使った。いま、トランプは、世界中の極右やポピュリズム、権威主義的指導者たちと連携を強めようとしている。直言「「権威主義的立憲主義」の諸相」でも論じたように、「権威主義的立憲主義」とは、権力行使が法や憲法の影に隠れて行われる。例外のインフォーマル化が進み、インフォーマルなネットワークが国家の深部に形成される。司法も無力化される。権力は統治者自身の利益のために行使され、権力の私物化も目立ってくる。被治者の歓呼の声のなかで、権威主義的統治が強化されていくなどの特徴をもつ。

そこでの手法として、「恒常的非常事態」が好まれる。トランプの就任演説には2カ所、南部国境の「国家非常事態」と「国家エネルギー非常事態」の宣言がなされる。前者では軍の投入が準備されているが、国境地帯は国土安全保障省の管轄であり、すでに2500人の州軍・予備役が投入されている。1500人が連邦軍だとすれば、1期目に抗議デモ鎮圧のため、ワシントン周辺に第82空挺師団を配置したが、それ以来のことになるだろう(直言「トランプがワシントンを「天安門」に?」参照)。「不法移民」の大量強制送還や、トランスジェンダーを含めた性的マイナリティへの抑圧。演説で、「米国政府の公式方針として、性別は男性と女性の2つのみとする」という下りで拍手が起きたのには驚いた。なお、写真は、ホッブスのリヴァイアサンにトランプの顔を当てはめたもの

 トランプは就任式直後に支持者らが待つアリーナに向かい、そこで、衆人環視のもとで大統領令への署名をやって見せた(写真参照)。1期目は大統領執務室だったが、今回はたくさんのペンを並べて、署名に使ったペンを支持者に投げ与えるというパフォーマンスまで行った。赤い革張りの椅子に座り、小さな机に並べられた青い革張りの表紙の8つのフォルダーを次々と手渡される。トランプは「デビュー記念」に、前任者バイデンの78の命令を取り消し、26本の大統領令、12本の大統領覚書、4本の布告に署名した。トランプはたった一度の署名で、凶悪犯罪者を含む1500人以上の「キャピタル・ストライカー」(議事堂暴動参加者)に恩赦・減刑を与えた。

多数の大統領令を高く評価するのは、EUとNATOの加盟国であるハンガリーのオルバン首相である。オルバンは1月21日にXに投稿してトランプの就任を祝福し、大統領令は「アメリカだけでなく、全世界を変革する」と述べた。「間もなく、ブリュッセルの上空で太陽の輝きが変わるだろう」とも。

なお、米国内で生まれた子どもに自動的に米国籍を与える「出生地主義」の廃止を命ずる大統領令は、ワシントン連邦地裁で憲法修正14条違反として、早々と差し止め命令が出された(1月23日追記。「憲法ブログ」のAmanda Frostの論稿参照)。


映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を見る

 ちなみに、この「直言」をアップするにあたり、映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(米国、2024年)を見てきた。都内でも上映館はわずかで、平日の昼間に行ったが観客はわずかだった(『シビル・ウォー:アメリカ最後の日』の盛況とは違った)。若き日のトランプを演ずるセバスチャン・スタンの演技に舌をまいた。指南役のロイ・コーン弁護士が、勝利の3つのルール(①「攻撃、攻撃、攻撃」、②「非を認めず全否定せよ」、③「どれだけ劣勢に立たされても勝利を主張しろ」)をトランプに伝授する。これをどのようにトランプが身につけ、「発展」させていくかが見どころである。画面に一瞬、80年代にも「MAGA」が使われていたことが示されるが、あの時代は40年代後半の米国よ、再びだった。いま、トランプが「取り戻す」起点はどこなのだろうか。

【文中敬称略

トップページへ