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今週の「直言」

2026年5月2日



ドイツ海軍の掃海艇に乗った

27年前、ボンで在外研究中、ドイツ連邦海軍の掃海艇に乗ったことがある。バルト海沿岸のオルペニッツ基地(フレンスブルクの南東40キロ)からライン川を遡上してボンの対岸に停泊した。この写真はその時に撮影したものである(直言「ドイツ「水軍」の求人航海」)参照)。

私が乗ったゲフィオン(M 2660)は、沿岸や河口などの掃海任務にあたる木造船である。2002年に退役しているから、私が乗ったときには市民向け宣伝として「最後のご奉公」をしているところだった。さて、現在トランプはイラン戦争との関連で、NATO諸国や日本に対してホルムズ海峡への掃海艇派遣を強く求めている。もし派遣することになれば、湾岸戦争以来となる。超高額の最新鋭イージス艦ではなく、はるかに「安価」で地味な掃海艇が国際政治の焦点になりつつあることは皮肉であるが。



ドイツは掃海艇派遣を決める

    ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、4月20日に国家安全保障会議(NSR)を招集した。そこで連邦海軍の掃海艇部隊の派遣について合意した。『南ドイツ新聞』4月21日がそれを次のように書いている(以下、要約)。

 ドイツ連邦軍は一定の条件のもとで、機雷掃海および海上偵察の能力を提供することになる。その条件とは、①説得力のある軍事計画の提示、②国際ミッション(できれば国連による)の任務授権、③連邦議会の決議、である。つまり派遣の前提とは、戦闘が停止され、交戦当事者間で確固たる合意が成立していることである。現在、停戦は不透明であり、国際ミッションが形成される動きは、目下のところ見られない。

 連邦海軍は、機雷の探知・除去を行うため、フランクエンタール級MJ 332型の機雷掃海艇を10隻保有している。これらの掃海艇とその支援にあたる補給艦は、上の条件に基づけば、まず欧州連合(EU)の海軍ミッション「アスピデス(ASPIDES)」の枠組のなかで派遣されることになるだろう。同ミッションは、紅海およびその周辺海域において、イエメンのフーシ派による攻撃から商船を保護することを目的としている。

    『南ドイツ新聞』4月25日によれば、連邦国防大臣ボリス・ピストリウスは上記の安全保障会議の合意を得て、掃海艇1隻と補給艦1隻を地中海に展開すると発表した。ピストリウスは、その前提として、まず米国とイスラエルによるイランとの戦争における戦闘行為が終結することが必要だと強調している。法的根拠として、彼は紅海におけるEUの海軍ミッション「アスピデス」の任務拡大を「妥当かつ考えられる選択肢」として挙げている。一方、国連の任務授権は現時点では想定されていないとしている。

掃海艦艇の保有数は日本の3分の1だが

   この写真は、『南ドイツ新聞』4月17日の掃海艇の用語解説記事に掲載されているものである。ドイツ北部のキールにある海軍基地に停泊する機雷掃海艇「バート・ベヴェンゼン」(M 1067)である。NATOの常設対機雷部隊の一つで任務に就く。ホルムズ海峡での作戦にも対応可能な、特別に設計・装備された艦艇である。

   「掃海」という言葉は、あらゆる種類の機雷を捜索し、無力化するハイテク能力を示唆する(連邦海軍のホームページより)。10隻のうちの2隻は、主にNATOの常設対機雷部隊で活動している。機雷探知には、爆発物を発見・破壊する水中ドローン(Seefuchs型)に加え、「水上ドローン」(Seehund型)も使用される。これは、大型船舶の電子信号を模倣して機雷を爆発させる無人艇である。掃海艇の船体は磁界の影響を受けない非磁性鋼でできており、さらに、音響機雷を誘発しないよう、低速航行時にはほぼ無音で移動する。掃海艇というよりも、正確には機雷掃討艦(Minenjagdboote)と表記されている。

日本は世界のなかでも掃海艇を多数もつ国である。海上自衛隊が現在保有している掃海艇・掃海艦の隻数は、合計で約30隻である。 掃海艦(MSO)約12隻。主力艦は「あわじ型」。 掃海艇(MSC/MS)約18隻、主な艦型は「えのしま型」「すがしま型」 などである。  


日本の掃海艇は米軍の尻拭い

    太平洋戦争末期、米軍は日本近海に大量の機雷を撒布した。戦後、この処分のため、日本の海上保安庁の掃海艇が機雷除去の任務にあたった。さらに、朝鮮戦争が始まると、海上保安庁は、米極東海軍司令官の指令に基づき、4個の掃海隊を編成して機雷の掃海作業にあたった。実質的な参戦であった。この間、触雷により掃海艇1隻が沈没、1名の死者を出している(直言「集団的自衛権行使はいかなる「結果」をもたらすか」の中ほど参照)。実質的な戦後の「戦死者」第1号である。

   このように、米軍は、船を沈める「ゴミ」を大量に海にまき散らして、その掃除を日本に押しつけてきた。朝鮮戦争の仁川上陸作戦の際にも、北朝鮮の機雷の処理を日本に丸投げした。こういう事実はしっかり記憶しておく必要がある。

  故・信太正道は特攻隊の生き残りで、キャリア官僚として海上保安庁に入るとすぐ、朝鮮戦争における掃海任務につかされた。木造の掃海艇が処理仕残した機雷がないかどうか、鋼鉄製の船で確かめる。海上保安庁ではこの船を「試行船」(GP1)と名付けていた。GPとはギニアピック、つまりモルモットのことだ。この試行船が無事通過できれば、米軍はその海域は安全であるとして活動を始める。信太は、その船にキャリアとしてただ一人乗船させられる。「私には何の仕事もないことが分かりました。…やっと気づきました。私自身が「モルモット」であることを」と語っている(直言「信太正道さんを悼む―「最後の特攻隊員」」参照)。 

  米国のブッシュ(父)政権が、冷戦後の米国優位の「新世界秩序」を作り出すために強引に始めた湾岸戦争。その際、日本の自衛隊の湾岸派遣がブッシュにより強く求められた。日本は金しか出さないと非難され、「金出せ、人出せ、血も流せ」(「かたつむりの歌」のトーンで)と要求された。そこで、当時の政権が選んだのは、戦後の機雷処理のための掃海艇派遣だった。政府解釈では「武力行使の目的をもって、武装した部隊を、他国の領土・領海・領空に派遣する」行為を違憲の「海外派兵」と定義し、戦後の機雷処理ならばそれにあたらない「海外派遣」だから憲法上可能ということになった。これが自衛隊の「海外派遣」の口開けとなり、その「本来任務化」へとつながっていく。

   1991年3月、掃海母艦「はやせ」と4隻の掃海艇、補給艦「とわだ」からなる湾岸派遣部隊の派遣が命令された。磁気機雷への対応上、これらの船は鋼鉄製ではなく軽量の木造だったため、荒波のインド洋をわたることは大変な困難を伴ったようである。真夏の6月から9月にかけて、現地は平均気温45度の灼熱の悪環境で、ハエや蚊やアブの大群が襲来し、海域の透明度はわずか1メートルという悪条件だったという。それでも34個の機雷を処理した(『写真集[湾岸の夜明け]作戦全記録:ペルシャ湾掃海派遣部隊の188日』(朝雲新聞社、1991年)、『週刊文春』91年11月14日号、『週刊現代』同7月13日号グラビア)。

 現場に大変困難な任務を押しつけて、当時の政権は米国の「国際貢献プレッシャー」を乗り切ろうとしたわけである。ちなみに、当時の政権幹部は、掃海艇が磁気機雷対処のために軽量・木造だったため、インド洋では過酷な荒天航海になったことを、任務終了後に知ったという。政治家に軍事知識がないことの一例である。

掃海艇派遣の法的根拠は

    あれから35年。再び、ペルシャ湾地域に掃海艇を派遣することが問題化しつつある。トランプが勝手に始めた国際法違反のイラン戦争の後始末と尻拭いを、「世界の平和をもたらすのはドナルドだけ」という「媚びて×5まいります」の高市早苗は、1991年当時とは事情も条件も異なるにもかかわらず、安易に約束してしまったのではないか。

   CNN 3月11日によれば、米海軍は昨年9月以降、ペルシャ湾に専用掃海艇を配備していない。4隻いたが、退役したのである。この写真はCNNのものだが、退役する4隻を解体のため米本土に搬送するところである。すごい写真である。トランプはホルムズ海峡の封鎖をいうが、実際には、まともな掃海艦艇もなく、心もとないというところだろう。その穴を埋めることは容易ではない。そこでトランプは、NATOをゆすり、高市をおだてて、掃海艇派遣をさせようとしているのだろうか。 

   ところで、自民党の政務調査会がまとめた「エネルギー及び重要物資の安定供給確保及び海上輸送途絶対策に向けた緊急提言(第二弾)」(4月24日)が高市首相に提出されたが、そこには、戦闘終結後、ホルムズ海峡の安全な航行の確保に向けて「掃海艇の派遣を検討すべきだ」と書かれている。これを高市に手渡した政調会長の小林鷹之は、「シーレーン(海上交通路)の確保は国益に直結する重要な課題だ」として、「掃海艇の派遣は一つのオプションになりうる」と述べた(『東京新聞』4月25日付)。高市は、すでにトランプとの関係で掃海艇派遣を約束していて、党側の要望に応えた格好にして派遣を決めたいというところだろう。高市を含め、近年の政権は、法的・制度的手続を軽視し、「スピード感」(いやな言葉だ)をもって強引に政策を実現する傾向が強い。私はこれを「プロパ(Procedure Performance)」と呼んでいる。高市の「SNS依存症候群」がそれに輪をかけている。

 では、高市はこの派遣の法的建て付けをどう考えているのだろうか。さすがに防衛省設置法4条1項18号の「調査・研究」ではカバーできないから、機雷掃海を作用法的に根拠づけるとすれば自衛隊法84条2ということになろう。安倍晋三肝入りの「ホルムズ海峡=存立危機事態」は、集団的自衛権の行使事例として想定されていたものであり、武力攻撃に連動する。1991年のときは自衛隊法旧99条「機雷等の除去」(日本近海を想定して制定されたもの)を拡大解釈して運用したが、今回は安全保障関連法制定時に整理された84条の2が使われそうである。

   ただし、この条文によれば、自衛隊が除去できる機雷は「遺棄機雷」(=武力攻撃の一環として敷設されたものではないと評価できる機雷)に限定される。なぜなら、戦闘作戦行動中に敷設される機雷を除去すれば武力行使と見なされ、相手国からの攻撃対象となり得る。したがって、遺棄機雷の「掃除」以外は84条の2の対象外と解される。 

事実上または正式に戦闘が終了した後、敷設国の武力行使との一体性が失われた「遺棄機雷」と合理的に判断できるものに限定される。しかも、イランが機雷で海上封鎖をするホルムズ海峡の国際通航路というのは、最狭部は21カイリである。領海12カイリだから、イラン領海とオマーン領海が重なってしまい、純粋な公海部分が存在しない。国際通航路は、オマーン領海側に設置されている。イランは機雷をオマーン領海に敷設して海上交通路を封鎖することになる。ドイツも掃海艇派遣には、戦闘が停止され、交戦当事者間で確固たる合意が成立していることを前提にしている。

 

トランプの尻拭いを拒否せよ

派遣が取り沙汰されている掃海艇について一言すれば、1991年の頃とは異なり、現在の掃海艇は非磁気性の繊維強化プラスチック(FRP)で作られている。木造船と同様、金属ではないため磁気を帯びにくく、磁気機雷が反応しにくい仕組みである。だが、「えのしま型」も船体の「外洋耐性」(インド洋の荒波)が1991年の木造船よりは向上しているとはいえ、乗員の負担は大きいだろう。「あわじ型」は長期航海前提の設計になっているというが、しかし、本質的に問うべきところはそこではない。そもそも、なぜ、日本がホルムズ海峡で機雷掃海をしなければならないのか。トランプが勝手に始めた戦争の結果であり、その尻拭いをあえてしなければならない理由はない。

 『東京新聞』4月25日付は、1991年にペルシャ湾までいって掃海活動をしてきた元自衛官のコメントを載せている。掃海部隊の指揮官を務めた落合畯は、「派遣は『戦後処理』であることが大前提だ」としつつ、派遣の判断には「武力衝突が絶対に起きないことが確約されているか、慎重な検討が必要」と述べている。重い言葉である。

    明日は79年目の憲法記念日である。当日は茨城県水戸市で講演する(昨年は徳島だった)。『東京新聞』に連載している「水島朝穂の東京新聞への直言」2026年4月は、高市政権の政治手法を批判している。無料会員登録をすれば3本まで無料で読むことができる。

 【文中敬称略】

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。
詳しくは、直言「わが歴史グッズのはなし(6)アフガニスタン」参照

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