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2025年2月21日


トランプ政権は「恣意の支配」

この1カ月、この惑星に住むすべての人々は、一人の人物の言動に振り回され続けている。ドナルド・トランプ。地球を何度でも破壊できる数の核兵器を保有し、世界で最も金持ちの国で、戦後80年にわたり「国際秩序」を常に仕切り続けてきた国のトップになりながら、毎日のように「ちゃぶ台返し」の政策を打ち出している。「国家は私だ」とばかり、なにものにも拘束されないという姿勢を貫いて爆走している。冒頭の写真は、すでに紹介した「ドナルド・トランプグッズ」に、最近入手した「トランプ暴走族」フィギュアを加えたものである。

 『南ドイツ新聞』の評論「ドナルド・トランプは、建国の父たちが警告した悪夢のような権力への執着である」は次のように指摘する。

「…アメリカの民主主義は、非常に短期間で、認識できないほど切り刻まれようとしている。憲法の秩序と機構は、この国の民主主義的性格が本当に危険にさらされるほどのペースで攻撃され、解体されている。…トランプはまさに、18世紀末に建国したアレクサンダー・ハミルトン、ジェームズ・マディソン、ジョン・ジェイがアメリカ憲法の古典『ザ・フェデラリスト』のなかで描いた悪夢である。 彼らは専制君主と民衆の誘惑者、権力への執着という怪物について警告していた。…トランプ旋風は強力な牽引力を持ちつつある。恣意とのたたかいを始めるのが遅れれば遅れるほど、危険はより大きくなる(Je später der Kampf gegen die Willkür beginnt, desto größer die Gefahr.)。…」と。

  この評論も指摘するように、トランプの本質は「恣意」である。予測不能性を巧みに用い、相手をたじろがせ、思考停止に追い込む。トランプの手法は「取引」(deal)ではなく、「脅迫」(threat)である。特定の個人や集団が恣意的に権力を行使する「人の支配」を克服して、「法の支配」を確立したのは人類の英知だった。だが、いま、私たちは巨大な歴史的反動を目撃している。トランプの「恣意」によって、米国はいま「人治国家」への逆走をノンストップで続けている。8年前は「立憲主義からの逃走」だったが、今は「立憲主義との闘争」の域に達しつつあるのではないか。

 トランプが2月18日午後6時32分にXに投稿した一言が、彼の思想と行動を端的に表している。即ち、「自国を救う者は、いかなる法律にも違反しない」(He who saves his Country does not violate any law.)と。冒頭の2つ目の写真をご覧いただきたい。ナポレオンに自らを引き寄せ、異様な使命感をもって米国のトップとなったトランプは、何をやっても法律に違反しないとあらかじめ宣言してしまった。

    トランプにとって、もはや「法の支配」は不要なのだろう。2月8日の「日米共同声明」にはその姿勢が明確に出ていた。昨年4月10日のジョー・バイデン=岸田文雄の「日米共同声明」に3カ所使われていた「法の支配」という言葉が、今回の「日米共同声明」ではまったく登場しない。なお、「グローバル」という言葉はバイデン=岸田の共同声明にはタイトル含めて19カ所に使われていたが、トランプ=石破の共同声明では完全に姿を消している。日本政府は、大統領が変わるたびにこうも簡単に追随できるのか(「水島朝穂の新聞への直言」『東京新聞』2月23日付掲載予定を参照のこと)。

 

ホワイトハウスのホームページがおかしい

   トランプが1カ月前に大統領に就任するや直ちにやったことがある。ホワイトハウスのホームページ(ウェブサイト)の改変である。中身はほんとうにシンプルになった。というより、まったく無内容になった。例えば、「トランプ-ヴァンス政権の優先事項」を見ても、政権の目標を端的に示すべきところを、「米国を再び偉大にする」(MAGA)がそのまま語られたり、「沼地を干上がらせろ」(ワシントンを清掃せよ)という、公的機関のホームページとは思えない乱暴な表現が用いられている。何よりも驚いたのは、合衆国憲法についての一連のページが消えていることである。かつては子ども向けのページもあり、やさしく歴史について学ぶことができるように配慮されていた(子ども向けページはここから)。オバマ政権以降は子ども向けページはないようだが、歴代大統領や憲法についての簡単な解説が維持されてきて、学校教育で参照されることもあると聞く。

   憲法への軽視を超えて無視、さらには蔑視の水準にまで至っているのは、「シンゾー」(安倍晋三)と共通している。2人は憲法への姿勢においても気が合うわけである。

    さて、第2次トランプ政権になって、ホワイトハウスのホームページはどのように改変されただろうか。アメリカ憲法の専門家である望月穂貴氏に寄稿してもらった。望月氏は2013年から2021年まで、このホームページの管理人を務めていた。お忙しいところご執筆いただき感謝申し上げる。

ホワイトハウスウェブサイトから「憲法」が消えていることについて
望月穂貴

注:本稿におけるホワイトハウスウェブサイトは、2025年2月17日時点のものを指す。

ホワイトハウスウェブサイトの変化

第二次トランプ政権の発足後、ホワイトハウスウェブサイトの変化が一つの話題になっている。保守派の目の敵にされていた多様・公平・包摂(DEI)に関するページが消されたことは、極右の歓心を得るための行動であり、予測できないことではない。

ホワイトハウスウェブサイトの消されたページはそれだけではない。もっとも大きな変化として、スペイン語版が消されている。NBCによると、スペイン語版はブッシュ(子)政権時代からあるという。また、歴代大統領を紹介するページも消えている。他に消えているページに関しては、先のNBCの記事を参照いただきたいが、今回取り上げておくのは憲法のページである。

歴代大統領のホワイトハウスウェブサイトは、ナショナル・アーカイブに保存されるので比較はそれほど難しくはない。ホワイトハウスの憲法のページは、オバマ政権時代に追加されたものである。トップページにある「1600 PENN」(ペンシルヴェニア通り1600番地=ホワイトハウスの住所)という項目の中にある「私たちの政府(Our Government)」という箇所に立法府、執行府、司法府と並んで憲法の項目がある。憲法の前文が引用され、「合衆国憲法は合衆国の最高法規である。制定者たちと諸州の立法府の同意によって人民の至高の権威を与えられた合衆国憲法は、あらゆる統治権の源泉であり、合衆国市民の基本的権利を保護するために重要な制約を政府に課している」という簡潔な憲法の紹介文があり、憲法制定から権利章典(第1~10修正)の制定までの経緯がごく簡単に説明されている。

トランプ第一次政権時代のウェブサイトでは、「1600 PENN」ではなく「ホワイトハウスについて(About the White House)」という項目となっているが、同じように「私たちの政府」の中に憲法のページがあった。かつて「直言」でもトランプ第一次政権時代の憲法のページを引用したことがあるバイデン政権時代のウェブサイトにも同じページがあり、文言もほとんど変わらない(ただし、合衆国憲法は合衆国の最高法規である~という説明は見当たらない)。

では現在どうなっているのかというと、ホワイトハウスのトップページを開いて下にスクロールすると、「ホワイトハウスについて」という項目がある。そこには、「ホワイトハウス」「キャンプ・デーヴィッド」「エアフォースワン」へのリンクのみで他の情報はない。「ホワイトハウスについて」という独立したページがなくなっているのである。実は、ホワイトハウスのアドレスに/about-the-white-house/を付け足すと、独立した「ホワイトハウスについて」というページが現れる。ただ、やはり「ホワイトハウス」「キャンプ・デーヴィッド」「エアフォースワン」の説明が出てくるのみであり、憲法のページはおろか、「私たちの政府(Our Government)」の説明すらない。

なぜ変化したのか

USAトゥデイ紙の取材によると、ホワイトハウスは様々なリンク切れが意図的なものではなく、また、一時的なものであることを示唆したという。この記事は1月21日のものであり、ホワイトハウスは「まだ2日目だ」と記事中で言っている。しかし、もう1ヶ月も経とうとしているのである。憲法のページの削除は意図的なものなのか。意図的なものだとしたら、どのような意図なのか。

先程のNBCの記事に登場するドナルド・シャーマン(NPO法人「責任と倫理を支持する市民」の役員)は、憲法のページの削除も含めて、「プロジェクト2025」の反映であるとコメントしている。プロジェクト2025はヘリテージ財団が編纂した(トランプ復権を見越した)保守派の理想を盛り込んだ政策・行動アジェンダである。ホワイトハウスウェブサイトの変化は、アメリカの極右・保守派の歓心を得るためであるわけだ。憲法はトランプ政権からすると後ろめたいのかもしれない。そのような見方には一理ある。

一方で、別の側面もあるのではないか。憲法についても、保守派のアジェンダはある。私などは、保守派が喜ぶ憲法理論を盛り込んだページをフェデラリスト・ソサエティ(保守派の弁護士や法律家からなる法律家協会。どちらかといえばリベラルなアメリカ法律家協会に対抗して作られた。)にでも作らせれば良かったのではないかと思った。頼めば人はいくらでもいるだろう。単に憲法と立憲主義を嫌っているから憲法のページを消したとは思えない。

「私たちの政府」の削除

憲法のページは、「私たちの政府」のページごと消されていた。ここがヒントになると思う。まさにそのようなことを吹聴している――「政府機関全部を削除する」と大言壮語している――イーロン・マスクらIT長者たちの思想について考えてみよう。

IT長者たちは政府を効率化するとか、無駄を削減するということを盛んに言っている。そういえば聞こえはいいが、これらは彼らが奉じている加速主義の思想に基づいた効率化であることに注意しなければならない。要するに、要するに極限までコストカットして利潤を求め、その利潤で巨額の投機を行ってさらに利益をあげようという発想である。

IT企業の顧客サービス、サポートがメタクソ化する(enshittification)ことが指摘されて久しい。ライバルを買収して独占状態になるとサービスを改悪してさらに利益率を上げようとすることをいう。それで得た利益を投機につぎ込んでさらに儲けようとする悪辣極まる思想である。IT企業のサポートに電話をかけてもどこかの外国のコールセンターにつながってまともな対応がされないとか、コールセンターの人員が極限まで削減されていてまったくつながらないとか、チャットボットが定型的な回答のみ返してきて使い物にならないといった経験をしたことがないだろうか。あるいは、突然サービスの仕様が改悪されたという経験はないだろうか。イーロン・マスクが買収して以来のツイッター(現X)の度重なる仕様改悪は記憶に新しい。こうしたことに身に覚えがあるならば、あなたは既に企業のメタクソ化と資本の本源的蓄積のために犠牲にされているということだ。

マスクらIT長者は、ライバルを買収して独占状態を作り出し、自社のサービスを改悪して利益率を上げ、ユーザーから搾り取った金で莫大な額の広告を打ち、ついに大統領府まで買収した。そして大統領府においても極限まで公役務を削減し、何かにその金を使おうとしている。既にトランプ政権では、暗号資産準備金制度の構築や、AIへの莫大な投資がアジェンダとして浮上している。これらは、経済学者のポール・クルーグマンが予想しているように、AIバブル崩壊に備えたIT企業救済策に他ならない。

効率化や無駄削減は当然のことである。問題は、いかなる観点から見て効率化を行うかである。IT企業に莫大な公的資金を注入するためにそれ以外のサービスを極限まで削減することは、IT長者にとって効率的であったとしても、一般市民との関係では効率的な行政とはいえない。わかりやすい一例を挙げる。先のNBCによると、ホワイトハウスから消えたページの中に、アクセシビリティ(サイトデザインの見やすさ)に関する問い合わせ先が記されたページがある。サイトの見やすさについては、障害のあるアメリカ人に関する法律によって基準が定められており、これに従うことは政府の義務である。しかし、それに関する問い合わせの窓口を削減したわけだ。これは誰の観点から見た効率化だろうか。今後、トランプやマスクがいう効率化や無駄の削減という言葉には、上記の注釈をあらゆる機会に付すべきである。誰にとっての効率化という視点を欠いたままその言葉を広めることは、トランプ第二次政権と、人類史上最大と形容するべきほどの資産を集めてまだ満足していない欲深いIT長者たちへの加担である。

合衆国憲法は「公共の福祉」(the general Welfare)を促進するために制定された(前文)。合衆国の政府機関は公共の福祉に奉仕しなければならないはずである。トランプ第二次政権のスタッフが憲法を厭うのは、公共の福祉に奉仕するべき「私たちの政府」を文字通り削除するつもりだからであろう。

(早稲田大学比較法研究所招聘研究員)
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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。
詳しくは、直言「わが歴史グッズのはなし(6)アフガニスタン」参照

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