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今週の「直言」

2025年12月20日


高市内閣の「官邸幹部」「政府高官」の核武装発言

市政権の「逆走」が止まらない。1972年10月以前の「パンダのいない日本」にBackすることはほぼ確実である。この写真は、それを印象づける、私のオリジナルの歴史グッズである。

  12月18日、「官邸幹部」の一人が「日本は核兵器を保有すべきだ」との考えを示し、日本独自の核兵器体系について議論する必要があると述べた(『朝日新聞』2025年12月19日付、デジタルは18日21時26分)。その人物は、核不拡散条約(NPT)との関係や「非核三原則の見直しには政治的な体力が必要になる」との見方も提示。ただ、「政権内で日本の核保有をめぐる議論をしているわけではないとし、核保有を目指す時期については言及を避けた」という。
   『東京新聞』19日付も、「政府高官「核保有すべき」」と、職名や名前を出すことなく、『朝日新聞』より大きな4段見出しでこれを報じた。『東京新聞』デジタルは、共同通信の配信記事を18日22時53分にアップしている。デジタル版は「発言はオフレコを前提にした記者団の非公式取材を受けた際に出た。同時に、現実的ではないとの見方にも言及した」と断りを入れている。ネット上では、「オフ懇」(オフレコの記者懇談会)での発言の公表を非難する向きもあり、国民民主党代表もその点を問題にしているが、非核三原則の「見直し」を掲げる高市政権の「官邸幹部」ないし「政府高官」の発言である以上、これをオフレコでスルーすることは許されないだろう。

  「官邸幹部」とは誰か。5人いる内閣総理大臣補佐官(首相補佐官)のうち、「国家安全保障に関する重要政策及び核軍縮・不拡散問題担当」の尾上定正であると強く推察される。

 

尾上定正首相補佐官とは

  尾上には、冒頭の写真にあるように、『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』(新潮新書、2021年)という共著がある(帯の写真で尾上は左下)。2020年12月に行われた座談会の議論をまとめたもので、参加者は陸と海の幕僚長経験者と安倍晋三内閣の内閣官房副長官補である。尾上は北部航空方面隊司令官を経て、補給本部長(空将)で退官している。この本は発売された直後に読了していたが、4年ぶりに、尾上の発言に絞って再読してみた。いろいろな発見があった。

   尾上はAIの軍事への応用に関心があり、この分野で台湾に軍事協力するように説いている(107-108頁)。そして、自衛隊には核についての専門家がいないから、自分は独自に勉強した知識でやっており、今後、「核も含めた共同作戦計画」の総合的検討が必要と主張している(159頁)。そして、こうあけすけにいう。「私は、仮にアメリカが地上発射型の中距離ミサイルを開発したとしたら、彼らは在日米軍基地に配備するだろうと思います。日本はそれを知っても見ないふりをする。より正確に言えば、事前協議を必要とする米軍の装備における重要な変更(核弾頭及び中・長距離ミサイルの持ち込み並びにそれらの基地の建設)について解釈を変えるのが大人の知恵ではないか、と」(156-157頁)。「核シェアリング」の点では、「(核を)共有しているポーズが大事」とも述べている(159-160頁)。   

  3年前の直言「「核シェアリング」という時代錯誤」で安倍晋三の「核共有論」を批判したが、その際、この議論を日本で熱心に主張していたのが、あの田母神俊雄であった。 空幕長だった田母神が尾上と接点があったかどうかは確認できなかったが、「核時代のピエロ」田母神に続いて、尾上が、自衛隊OBのなかで核兵器保有に熱心な人物ということなのだろう。高市早苗首相が、番匠幸一郎(現・防衛大臣政策参与)や磯部晃一といった陸の俊英海の政治家、河野克俊などではなく、幕僚長も経験していない尾上を側近にしたのは、非核三原則の「持ち込ませず」を緩めて、米国の核兵器を日本国内に配備する方向について具体的なアイデアを求めたからではないか。奈良県出身の「古くからの飲み友達」(高市早苗ホームページより)という気安さもあるだろう。配備される中距離ミサイルの弾頭について「知っても見ないふりをする」「大人の知恵」もその一つなのかもしれない。

  だが、「オフ懇」での軽口は命とりになりそうである。『東京新聞』デジタルによれば、「核保有が必要だとした上で「最終的に頼れるのは自分たちだ」…「コンビニで買ってくるみたいにすぐにできる話ではない」とも話した」という。中谷元・前防衛大臣は19日、「軽々に話すべきではない。(政権は)しかるべき対応をしなければいけない」と責任論に踏み込んだ(『毎日新聞』12月19日)。非核三原則「見直し」に強く反対している公明党(『公明新聞』11月14日付)も、首相側近の発言に強く反発している。

    台湾の三大紙の一つである『自由時報』(民進党系)10月25日の東京特派員記事には、こうあった。「尾上は日米台の安全保障問題の専門家で、2023年には台湾を訪問し、日台のシンクタンクが主催する複数の机上演習(ウォーゲーム)に参加するなど、極めて重要な役割を担ってきた人物である。尾上の首相補佐官就任は、高市政権が「台湾有事」を念頭に置いた日米台の安全保障連携を重点課題としていることを如実に示している。尾上は2023年6月、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」の長野礼子事務局長が率いた元自衛隊高官訪台団の一員として台湾を訪れ、国防部系シンクタンクである国防安全研究院を訪問している」と。

  台湾との関係がきわめて深い人物が、日本の核武装について、非公式にではあれ見解を表明した以上、中国は、「存立危機事態」をめぐる高市答弁と重ねて、日本への対応をさらに硬化させていくだろう。


日本の核武装はどのように検討されたか

 この機会に23年前に書いた直言「「核兵器は持てるが持たない」論の狙い」を、リンクまでお読みいただきたい。1960年代前半、自衛隊は、日本国内で「Z」(戦術核兵器)が使用される前提で訓練を行っていた。Z火力(核砲弾など)の運用法や、Z戦下での死体回収の態勢まで出てくる。米軍のマニュアルの翻訳も使ったもので、あくまでも想定上のものである。

  冒頭の写真にある『わが国における自主防衛とその潜在能力について』は防衛研修所の研究資料と推定され(奥付なし)、1968年10月までのデータを踏まえて、日本核武装の一般的可能性を研究したものである。前文にこうある。「わが国が自主的な防衛政策を行った場合、核兵器生産の技術的能力がどの程度あるか、という問題について検討を行ったものである。もちろん、これは全く純粋に技術的検討であり、われわれの立場は、核武装政策を支持しているわけではない」とある。目次を見ると、「わが国の原水爆生産能力」から憲法および原子力基本法、国際条約との関係まで検討されていることがわかるだろう。

  左上の写真は、1967年に佐藤栄作内閣当時の内閣調査室が委託した研究報告書『日本の核政策に関する基礎的研究』である。2部構成で、「その1」は「独立核戦力創設の技術的・組織的・財政的可能性」、「その2」は「独立核戦力の戦略的・政治的・外交的諸問題」である。この資料は、古書店の目録から注文して入手したものだが、かつてNHKの番組に貸与して使われたことがある。『朝日新聞』1994年11月13日付の1面トップで報道されている。

  報告書は結論的に、「中途半端な核武装は、その保有者に『破壊されない前に使ってしまいたい』という気持ちを起させ、そのためにかえって先制攻撃を招きやすい挑発性をもつ」と指摘しつつ、日本の地政学的脆弱性を検討する。そして、地理的に見て中国に近接しているため、ABM〔弾道弾迎撃ミサイル〕を導入しても中国のミサイルを撃破することは不可能と断じている。

  「日本で現在開発中のロケットを軍用に転用することは、技術的問題さえ克服できればあながち不可能ではないが、核弾頭だけは、外国からもらいうける以外に方法はない。しかし、核拡散防止条約成立の過程から考えれば、その可能性はほとんどないといってよい。つまり日本は、技術的、戦略的、外交的、政治的拘束によって、核兵器をもつことはできないのであるが、そのことは日本の安全保障にとって決してマイナスとはならないだろう。…核兵器の所有が大国の条件であると考えうる時代はすでに去った。核時代における新しい大国としての日本は、国家の安全保障の問題を伝統的な戦略観念からではなく、全く新しい観点から多角的に解決して行かねばならぬよう運命づけられているのである」と。

   佐藤内閣当時の「安全保障環境」とはまったく違うから同じには論じられないという向きもあるだろうが、実は、冷戦時代も米ソの核対決はきわどい場面もあったのである。そもそも「安全保障環境」という言葉がよくないと私は考える。戦争は自然現象ではなく、人為的なものである。この言葉は、1978年の防衛白書で初めて使われ、冷戦が終わる1990年代に定着した。巨大な軍隊、莫大な軍事費を正当化するためには、「安全保障環境の悪化」は実に便利である。18日の「オフ懇」で尾上補佐官は、記者たちに「安全保障環境の悪化」を語って、核保有も必要という議論を展開したようである。こういう人物を周辺に配して、高市首相は非核三原則の「見直し」をやろうとしている。

  今回の「直言」から自衛隊の軍隊化の動きについて具体的に見ていく。次回は「中将」「大佐」という階級を復活させることの問題や、自衛隊の精神教育、死生観について書く予定である。                   

【文中敬称略】

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。
詳しくは、直言「わが歴史グッズのはなし(6)アフガニスタン」参照

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