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今週の「直言」

2025年11月29日



JAPAN IS BACKは安倍晋三の2013年のスローガン
り付いた笑みが瞬時に消え、冷徹な眼差しが鋼の光を纏う。歴代首相の所信表明ではせいぜい7%だった笑顔が、高市早苗首相の場合31%という驚異的な「表情解析」もあるが、その笑顔も、就任直後のトランプとの首脳会談がピークだった、と後日語られるときがくるかもしれない。そのピーク時の象徴として、トランプに土産物として「献上」した帽子(キャップ)がある。早速、ネットで注文した。トランプのサインの左横に高市のそれもある(上の写真参照)。

 ここで思い出すのが、その下の写真である。「師匠」の安倍晋三が、2017年11月のトランプ初来日の際に送った白いキャップ。そこには、“MAKE ALLIANCE EVEN GREATER”(「同盟をさらに強固にせよ」)とあった。今回入手したものは、“JAPAN IS BACK”(「日本は戻ってきた」)である。映画『ターミネーター』(1984年)で有名な“I'll be back”のノリで、「日本は戻ってくる」なら“JAPAN'LL BE BACK”なのだろうが、どうも意味不明である。もともと“JAPAN IS BACK”は、安倍が2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で発したスローガンであった。「失われた20年」を経て、日本が再び国際舞台で積極的な役割を果たすという宣言だった。高市が「日本は戻ってきた」というのなら、これまでの自民党政権は「失われた13年」だったということなのだろうか。


高市効果はパンダのいない日本

  この記事は定期購読している『南ドイツ新聞』11月25日付である。見出しは、「東京と北京の対立が不安を生み出している―日本の高市早苗首相は台湾に関する発言で中国を挑発…」とある。デジタル版(24日) の見出しでは、「東京にパンダだけではなく、さらなる損失をもたらし得る紛争」と位置づけている。写真には、上野動物園のパンダの双子の写真を使い、「日本には中国からのパンダがもういなくなるかもしれない」と書いている。パンダの貸与契約は来年2月に終了するから、このままいけば、中国政府がパンダの貸与契約を延長する見通しは低い、と。「高市早苗ほど、台湾紛争の激化シナリオについて明確に発言した日本の政府首脳はこれまでいなかった。彼女の立場は新しいものではないが、中国を不必要に刺激しないよう、東京の政府関係者の間ではむしろ固く守られている」「中国はボイコットで応酬している。自国民に日本への旅行を控えるよう警告し、海産物の輸入を停止した」「状況は複雑だ。一部の観測筋は、中国が日本のハイテク産業向けの原材料の供給もボイコットするのではないかと懸念している」等々。

  11月7日の衆議院予算委員会における高市答弁については、連載している「東京新聞への直言」(11月27日)でも書いた。そこで私は、この答弁を「暴投発言」としている。前回の「直言」の終わりの方では、「「台湾有事=日本有事」と国会の場で、正式の答弁として行ったことにより、中国に対する決定的な挑戦となってしまった」と指摘した。それはまた、1972年の日中共同声明(田中角栄内閣のとき)や、1978年の日中平和友好条約(福田赳夫内閣のとき)によって築かれてきた日中関係の到達点を大きく傷つけるものと批判した。

 

「存立危機事態」と断言した重大性―安保関連法のザル運用

 11月26日に行われた党首討論で高市は、「政府のこれまでの答弁をただ繰り返すだけでは、予算委員会を止められてしまう可能性もある」「具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で誠実に答えた」と述べた。「聞かれたから答えた」というのは、きわめて不遜である。質問者のせいにしている。ネットでは、質問した立憲民主党の岡田克也が非難されている。メディアの論調でも、そのような傾向が見られた。

 高市の答弁はこうである。「戦艦[!]を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます」。中国が台湾周辺で海軍力を使った行動に出た場合、「どう考えても」と強調して、「存立危機事態」になり得るケースと断言している。言葉のアヤとか、言い間違いとかではない。明確な認識と判断に基づいた答弁である。

  安保関連法の審議過程で「存立危機事態」が問題となったのは、ホルムズ海峡封鎖のケースである。直言「ホルムズ海峡「存立危機事態」?」をお読みいただきたい。高市は「ケース」といったが、10年前、安倍は11のケースを挙げ、その4番目がホルムズ海峡の機雷除去だった。この「直言」で私は、「米国がイランに攻撃を加え、イランの海峡封鎖でタンカーの航行が不可能となり、日本のエネルギー供給が断たれるような事態が起きたことを、「これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態と評価できれば、の話だが、「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使」という2要件と合わせて、タンカー航行の困難さだけで「存立危機事態」を認定することは無理筋だろう。…」と指摘している。10年前の審議で台湾海峡や台湾周辺がケースとして挙げられることは決してなく、安倍も頭のなかに封印していたはずである。「政治的仮病」により2度目の政権投げ出しの後に、元気いっぱいに「台湾有事、それは日本有事です」などとやっていたが、さすがに首相時代の国会答弁で持論を口にすることはなかった。高市は「師匠」ほどの抑制が効かないらしい。

  台湾周辺でかりに中国による武力行使が行われても、それが「存立危機事態」となるには「3要件」をクリアしなければならない。高市答弁のように「戦艦」が出てきても、そのまま「存立危機事態」のケースとはならない(現在の世界の海軍に「戦艦」は存在しないが、文脈的に広く戦う戦闘艦の意味でであろうから、そこは論点ではない)。

      高市答弁の決定的な問題は、もし台湾が攻撃されたら、日本は単独で先に攻撃に出てくる、と中国側が受け取る余地があったことである。日本に対する攻撃もない前提どころか、米軍に対する攻撃抜きに、「台湾を守る」はあり得ない。なぜなら、「存立危機事態」は「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」を要件としており、台湾は「他国」ではないからである(日中共同声明)。

 現在、日米の実務関係者の間では、仮に中国が台湾侵攻を行う場合、台湾を支援する米軍部隊や米軍基地などが中国側に攻撃される可能性があるが、その場合、日本が米軍を支援するために「存立危機事態」を発動することを想定しているという。高市は「来援する米軍への攻撃」という前提を抜きにして答弁してしまったわけである。

 軍事問題研究会が入手した「平成27年の平和安法制の要点」(2022年度海上自衛隊幹部学校作戦法規研究室)では、この図のようになっている。「存立危機事態」における海上作戦は、船舶の停船検査等(海上輸送規制法に基づく措置)、後方支援(米軍等行動関連措置法に基づく措置)、機雷掃海(自衛隊法88条に基づく武力行使として実施)である。自衛隊ができる武力行使としては「機雷掃海」が検討されている。湾岸戦争後の機雷掃海(1991年)とは違って、これは武力行使である。現段階でさらにどこまで検討されているかは不明だが、自衛隊の最高指揮官たる高市早苗が、中国に向かってより踏み込んだ「手の内」をほのめかす答弁してしまった可能性がある。これは別の意味で「失態」ということになろう。

    26日の党首討論は、「松下政経塾出身者コンビ」による馴れ合いとしか思えないほど、立憲民主党代表の野田佳彦の追及は緩かった。「存立危機事態」にあたるという答弁の撤回も求めなかった。野田は「従来の政府統一見解をある種、上書きする言い方。具体例を言わなかったのは事実上の(発言の)撤回だったと受け止めている」と、記者会見で勝手な解釈を述べていたが、これは高市への援護射撃ではないのか。

 加えて、党首討論での野田の質問で私が不快だったのは、自らの首相在任時、2012年9月11日、尖閣諸島国有化を閣議決定した際に中国が反発したことを語った下りである。

  尖閣諸島問題についていえば、1972年に周恩来が田中角栄に、1978年に鄧小平が園田直(外相)に提案したような、領土問題を将来の世代に委ねる「棚上げ」方式でやってきた。それを確信犯的にぶちこわしたのが、石原慎太郎東京都知事(当時)による「東京都が尖閣諸島を購入する」という挑発的発言(米国ヘリテージ財団(軍需産業がバックにいる)における講演)だった。また、これに焦った野田佳彦内閣(当時)が、「尖閣国有化」の閣議決定という愚策を行ったことである。これで中国のメンツが丸つぶれになり、中国漁船や公船が尖閣諸島周辺に多数現れるようになる。海上保安庁ホームページのグラフを見れば明らかである。野田は高市にこの時のことを語り、しばらくすれば中国はおさまるという安易なアドバイスをしたようなものである。「松下政経塾出身者コンビ」の党首討論とする所以である。

 

「そんなこと」「こんな人たち(連中)」の思想

  ところで、26日の党首討論では、野田は企業・団体献金の規制強化にも触れた。石破前首相が在任中に約束した、献金を受ける自民党の約7800支部の実態調査について「いつまでに回答するのか」と質問すると、高市は「調査をしているが、御党に示す約束とは思っていない。党内で役に立てる」と論点をずらした上で、唐突にこう切り出した。「そんなことよりも、ぜひ(衆院議員の)定数削減をやりましょうよ」と。これには息をのんだ。国政選挙で敗北を重ねた自民党の最大の問題が「政治とカネ」だったはずで、石破時代にも時間をかけて議論をして、法案まで出来ていることを「そんなこと」と切り捨てたのである。

  思えば、「師匠」の安倍晋三も、2017年7月の東京都議会議員選挙の応援演説で、聴衆から「安倍やめろ」コールが飛んだ際、「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかないんです」と叫んでしまった。首相には、自分を支持する人に対しても支持しない人に対しても等しく日本国民として対応にあたる職責があるとして批判を浴びた。選挙の結果は大敗北だった。なお、選挙のたびに議席を減らし、『資本論』的に表現すれば、「得票率傾向的低下の法則」に従っている共産党でも、党首公選制を主張して除名された党員に対して、党大会という公の場で、「こんな連中に負けるわけにはいかない」という発言が飛び出している。「そんなこと」や「こんな人たち(連中)」と一括りにして否定してしまった瞬間、その人の本質が透けて見えてしまう。



「停波の高市」を忘れるな―メディアへの圧力が始まる

 私は自民党総裁選を前にした「直言」で、「停波の高市」総裁は首相になれないと書いた。この予測自体は外れたが、この間の高市の言動はまさに大方が恐れ、危惧する通りになってきているように思う。

 高市早苗の性格といっていいと思うが、批判されると顔が豹変し、言葉のモードも一気に変わる。「師匠」の安倍晋三が予算委員会で野党に追及されると、「野次」まで飛ばしたことは記憶に新しい(直言「議会におけるヤジ」参照)。安倍の嘘、居直り、逆切れ答弁は数知れず、衆院調査局によれば、「サクラを見る会」問題においては118回森友学園問題では139回の「事実と異なる答弁」(虚偽答弁)を行っている。

  高市はまだ政権発足から間もないので、内閣支持率がきわめて高いが、国民は肝に命じておくべきである。本質的に安倍と同様、あるいはそれ以上に危ない存在であることを。そこで想起する必要があるのが、総務大臣時代の高市が放送法をめぐる問題で行った「捏造」答弁である。

 第2次安倍政権下の2014年、TBSのnews23に出演した安倍が、街頭インタビューで市民が政権批判をするのに腹を立てて、番組に対する批判をはじめ、メディアへの政権の介入が始まった。キャスターが降板させられたり、報道番組が著しく萎縮したりしたことがある。当時総務大臣だった高市が放送法4条の「政治的公平」に関する従来の政府解釈を変更し、より厳しくテレビ局の報道番組を監視するような発言をした。そこで、総務省内部で省内の認識を共有するための行政文書が作成された。そうした経緯もすべて記載されているこの文書を、2023年3月に立憲民主党の小西洋之(元・総務官僚)が暴露した(総務省「政治的公平に関する文書の公開について」参照)。

 これに高市(当時、経済安全保障担当大臣)が猛反発。同文書を「怪文書」、「全くの捏造」などときめつける答弁を行った。議員とのやりとりのなかで、もし文書が本物であれば議員辞職するかとの問いに「結構だ」とまで発言しておきながら、総務大臣がこれを行政文書と公式に認めても、高市は議員辞職しなかった。安倍晋三が、「妻や私がかかわっていたら総理大臣も、国会議員も辞めますよ」と答弁した2017年2月17日の衆院予算委員会を彷彿とさせる、まさに「はったり」と開き直りだった。

  ここで重要なのは、総務省が役所として正式の行政文書としたものを「捏造」などと罵倒したことである。総務大臣が不適切な発言だとたしなめるべきところだったが、当時の総務大臣は沈黙した。このようなことを平然と行ってきた人物が、いま、日本国の首相をやっているわけである。安倍がメディア介入を始めたとき、NHK経営委員に百田尚樹が選ばれ、NHK会長に「政府が右ということを左というわけにはいかない」といって顰蹙をかった人物が就いたことを想起しよう。
    2026年1月にNHK会長が任期満了を迎える。高市が「師匠」と同じことを始めないという保証はまったくない。大いに危惧される。「台湾有事」をめぐる答弁についてトランプから注意されても、高市は撤回しようとはしない。経済から文化交流に至るまで、日本人にも中国人にも不幸は続く。

【文中敬称略】

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。
詳しくは、直言「わが歴史グッズのはなし(6)アフガニスタン」参照

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