……法学部の静かな授業に慣れきっていたので、一昨年初めて教職課程の授業を受けて、私語の多さにびっくりしました。政経学部の「法学」にもぐらせていただいた時も確かにひどかったですが、教職はそれ以上のものがあります。「教室のうしろ」ではなくて、「教卓の前」を携帯を話しながら通り過ぎた例もありました。さすがにその時の先生は退室を命じていました。しかも、退出時に学籍番号と名前を言わせて、その学生を即刻登録抹消にしていました。以下、4つに分けて考えてみます。
(1) なぜ、今回のような事件が起こったか?
①個人の規範意識の低下説、②キャパシティ超過説、③折衷説(①+②)。
確かに740人は多すぎます。僕は最初②と考えましたが、①の原因を強調する方もいます。③が妥当かもしれません。少人数教室なら、携帯電話の鳴動はあっても、さすがに通話はできないと思います。(2) 今回のような事件が起きた場合の対応のあり方はどうあるべきか?
①無視・授業続行説、②注意喚起説、③強制退去説、④強制退去・登録抹消併用説、⑤試験時の答案不受理説、⑥業務妨害で告訴説。
水島先生は③の対応をとられました。今回の事件を、親しい友人何人かに話しましたが、全員③説を支持しています。しかしながら、現実は①も意外と多いように思います。大多数のまじめな受講生の不利益を考えれば、また、再発防止の観点からも、①はまずいと思います。ただ、許容範囲は④までかという気がします。⑤は、少なくとも被疑者(?)の特定ができていなければいけませんし、⑥は、法的には可能であるとしても、教育現場においてとるべき対応ではないと思います。(3) 今後の防止策はどうあるべきか?
①ルール策定説、②ペナルティ強化説、③人員削減説、④入学前のスクーリニング説、⑤入学後のマナー教育説。
(3)と下記の(4)はやや論点がかぶりますが、(3)が特別予防、(4)が一般予防といったところでしょうか。①については、大学でそこまでやる必要があるのかという批判がありえます。大学における「生徒指導」の必要性については、正月の朝日新聞でも取り上げられていましたが、家庭教育の「外注化」が進む今日、18歳まで生徒指導・しつけ指導が必要で、19歳から必要ないというのは合理的理由を欠くと思います(いわゆる「荒れる成人式」に同旨)。④は、推薦入試・面接試験における人物評価などに一部取り入れられているのではないでしょうか。これをすべての受験生に拡大させるのは、方向性としては間違っていないと思います(東大医学部が、理科Ⅲ類の全受験生に面接試験を課したことに同旨)。⑤は、大学3年生対象の就活マナー講習などがあたると思いますが、これを講座化して、「マナーに単位を与える」というのはどうかと思います。(4) (3)で①をとった場合、ルールをどのように周知徹底するか?
①常設掲示説、②法文化説
①をやっている大学を見たことがあります。自動車教習所のほか、予備校などにも似た掲示があります。赤い筆文字の「禁煙」に始まり、ラウンジの荷物を片づけろ、飲食物は持ち込むな、「投球等禁止」「ダンス禁止」等々。ちなみに僕の今いる22号館には「壁を叩いたり、蹴ったりすることを禁止します」いう貼り紙があります。法学部では以前、私語をしている学生を、学生が注意している場面を見たことがありますが、これが理想的な姿かと思います。まさに「自治」ですよね。僕も教壇に立つ身ですので、この問題は難儀です。自分なりのやり方を模索したい思います。……
上記のメールを読みながら、「大学もここまで来たか」という印象をもたれた読者もあろう。『アエラ』(2002年12月23日号)が「大学生は小学生なのか」という記事を載せたから、「イマドキの大学生」の惨状については、世間的な認識も高まったようである。では、どうするか。これに模範解答はない。大学教員が努力することはもちろん、家庭、小中高、大学のそれぞれで起きている「変化」に着目しながら、それぞれの段階で本気で考えなければならない時期にきたように思う。なお、4月からの講義について、人数削減を政経当局に求めた結果、500人を上限にしてもらえることになった。当面は、こうした「対症療法」でいくしかないのだろうか。